台湾における国民裁判員制度の導入

刑事弁護

台湾で国民法官法が制定され、2023年から国民裁判員制度が始まります。

国民裁判員法成立、国民裁判員の資格は満23歳で在学生は拒否可能

台湾では長らく職権主義による刑事裁判が行われていましたが、新しく始まる国民裁判員裁判では日本に倣った当事者主義による裁判が行われます。台湾では、この急な転換に対応するための準備が進められています。

そこで、10月8日、台北弁護士会との交流会に、日本における公判前整理手続の理論と実務を紹介する講演を行いました。台北弁護士会からの参加者は約50人で、弁護士だけでなく裁判官の方も出席されていたようです。

交流会においては、髙橋宗吾弁護士、山本了宣弁護士、津金貴康弁護士がそれぞれ冒頭陳述・弁論、証拠調べ、量刑に関する日本の刑事実務運用を紹介し、鴨志田祐美弁護士の司会のもと、講師4名に加えて遠山大輔弁護士、金杉美和弁護士において台北弁護士会からの質問に回答しました。

国民法官法の概要は刑事弁護OASISのニュースレターにまとめられており、基本的には日本の裁判員法に倣ったものなのですが、特に注目すべきは証拠開示と評決の規定です。

まず、証拠開示について、日本においては法定の類型に該当する証拠(類型証拠)と弁護人の主張に関連する証拠(主張関連証拠)が開示対象となります。開示請求を受けた検察官は開示の必要性、弊害の内容及び程度を考慮して開示の可否を決します。これに対し、台湾の国民法官法においては、検察官は公訴提起後ただちに事件記録及び証拠品を弁護人又は被告人に開示しなければならず、例外的に無関係な記録及び証拠、開示により他の捜査を妨害するおそれがある場合、開示により当事者又は第三者のプライバシーや業務上の秘密を害する場合、開示により他人を害するおそれがある場合に開示を拒否できるとされました(国民法官法53条)。つまり、全証拠の原則開示が法律レベルで実現しています。

次に、評決について、日本では裁判官と裁判員の両方の票が含まれた過半数(9人中5人)によらなければ被告人にとって不利な結論を採用することができないという修正多数決が採用されています。台湾は、これに加え、有罪判決と死刑判決については、裁判官と裁判員の両方の票が含まれた3分の2以上の票(9人中6人)によらなければ採用できないものとされました(国民法官法83条)つまり、有罪判決と死刑判決については評決要件が日本よりも加重されたことになります。

国民法官法の条文はこちらになります。DeepLで翻訳をした和訳版は下記になります(法的な正確性は保障しかねますのでご容赦ください)。

改正法条文 ja

日本の刑事実務は、法制定時に参照した欧米諸国から学ぼうとする潮流がありましたが、韓国や台湾といったアジア諸国の方が日本を参考に法制度を構築していることもあり、実務運用において日本と近似性がある点が多いようです。そのため、言語の壁は英語以上に高く感じるものの、これらの国から学ぶことも多いのではないかと考えております。

今回の台湾の法改正についても、法律レベルでは日本の刑事訴訟法・裁判員法を踏襲しつつ、一部については上記のように独自の修正が加えられています。この証拠原則開示と死刑評決の要件加重は、日本の法改正時に議論されたものの見送られた規定になります。この差によって、台湾の実務運用がどう影響されるのか、日本の刑事実務で困難な課題と考えられているものが台湾ではどう解決されるのか、今後の台湾の刑事司法実務に期待が寄せられています。

今回は日本の運用を紹介する講師として参加した交流会ですが、今後は台湾からも様々なことを教えてもらいながら共に高め合える将来を楽しみにしております。

投稿者プロフィール

西愛礼
西愛礼
2016年千葉地方裁判所判事補任官、裁判員裁判の左陪席を担当。2021年依願退官後、しんゆう法律事務所において弁護士として稼働。冤罪の研究及び救済活動に従事。イノセンスプロジェクトジャパン運営委員。日本刑法学会、法と心理学会所属。