季刊刑事弁護111号

刑事弁護

本日発売の季刊刑事弁護111号に私と秋田の論文が掲載されました。

秋田の論文は「プレサンス事件での可視化媒体の取扱いをめぐる理論上・実務上の諸問題」及び「最新刑事判例を読む(14) SBS/AHT事案で相次ぐ無罪判決」です。また、私の論文は「冤罪の構図—プレサンス元社長冤罪事件(1) 捜査機関の見立ての誤り」です。

裁判官の頃から、季刊刑事弁護という雑誌が好きでした。一番好きなのは第89号で、「セクシュアルマイノリティの刑事弁護」という特集に強いインパクトを受け、そのまま2周目を読んでしまったことを今でも憶えています。無罪事例が日本で一番集約されている媒体であり、刑事裁判の最先端を学ばせていただいておりました。季刊刑事弁護が好きな裁判官は私だけではなかったはずです。

今回の111号をネタバレにならない程度に紹介させていただきますと、危険運転致傷罪という刑法において最難関な法適用分野や、コインハイブ事件・SBS事件のような技術的な最先端分野が掲載されております。最先端な内容の論述が多い一方、掲載されている殆どの事例において、感情やバイアスによる誤解といった、人間であるが故の根源的な問題も生じていることが窺われました。バイアスに関する認知心理学分野に関する知識にも度々言及されているほか、裁判員裁判における手続二分論の実践や、敵性証人の弾劾に関する工夫例など、その人間であるが故の問題を、裁判でどのように弁護士が解決するかという知恵が記されています。弁護士側の人間味が伝わる記事も多く、読むと今季も頑張ろう、そう思える111号でした。

特集「無罪に伴う補償請求」も素晴らしい内容です。大平君平先生の記事には実務上必要なことが全て整理されており、元裁判官の福崎伸一郎先生へのインタビューには、私の乏しい裁判官経験に照らしても、刑事補償実務における裁判官の思考のエッセンスが詰まっていました。福崎先生が裁判官の参照する資料として言及されている最高裁刑事局による刑事裁判資料は、私も重用していたのですが、弁護士になってから公刊されていないことを知り、裁判所内で重宝されている資料に弁護人はアクセスできないことに驚き、また問題を感じております。

このようなとても充実した内容の媒体に、学生時代から今までお世話になった人たちと同じ号に、かの有名な「たぬき・むじな」が表紙となるタイミングで、初めて個人名で論文を掲載させていただいたことを光栄に思います。

投稿者プロフィール

西愛礼
西愛礼
2016年千葉地方裁判所判事補任官、裁判員裁判の左陪席を担当。2021年依願退官後、しんゆう法律事務所において弁護士として稼働。冤罪の研究及び救済活動に従事。イノセンスプロジェクトジャパン運営委員。日本刑法学会、法と心理学会所属。