プレサンス国賠訴訟の代理人意見書-刑事証拠の取扱いについて

刑事弁護
投稿者
秋田真志

1989年大阪弁護士会登録。刑事弁護に憧れて弁護士に。WINNY事件、大阪高検公安部長事件、大阪地検特捜部証人隠避事件、FC2事件、SBS/AHT事件、プレサンス元社長冤罪事件などにかかわる。大阪弁護士会刑事弁護委員会委員長、日弁連刑事弁護センター事務局長、委員長などを歴任。現在、SBS検証プロジェクト共同代表。

西愛礼弁護士の報告のとおり、2022年6月13日、山岸忍さんが国を相手取った国賠訴訟の第1回口頭弁論が開かれた。山岸さんの意見陳述の後、代理人らも口頭意見陳述を行ったが、そのうち、刑事証拠の取扱い部分を引用しておきたい。以前にも述べたとおり、日本における刑事証拠の取扱いは、きわめて制限的である。国賠訴訟でも、元弁護人、元被告人が、開示証拠を使用すれば、目的外使用にあたると解されている。しかし、国賠訴訟の中で、国側が刑事証拠を提出することは可能であるし、一定の要件が揃えば裁判所が文書提出命令を出すことができる。この意見書は、刑事証拠の積極的な提出を国に求めるとともに、裁判所にも積極的な訴訟指揮を求めるものである。(なお、大阪弁護士会で山岸さん、周防正行さん、江川紹子さんらを招いたシンポジウムについてはこちら

令和4年6月13日

大阪地方裁判所第12民事部 合議2係 御中

令和4年(ワ)第2537号

損害賠償請求事件

原告 山岸 忍

被告   国

第1回口頭弁論における代理人らの意見

(刑事証拠の扱いについて)

原告訴訟代理人

弁護士 中 村 和 洋

弁護士 秋 田 真 志

弁護士 西   愛 礼

弁護士 渡 邉 春 菜

 標記事件の第1回口頭弁論において、訴状陳述に併せて、下記のとおり、原告訴訟代理人らの意見を申し述べます。

1 はじめに-検察庁の無反省体質

「それから約半年。未だに何らの検証も謝罪も行われず、行われる予定もないようです。納得ができません。」

先ほど山岸さんが述べられたこの言葉こそ、検察庁の現実を言い当てるものはありません。

検察庁の「無反省」の体質です。

多くの冤罪事件で垣間見える検察庁の本質が、本件では露骨に表れています。

2 刑事証拠の扱いをめぐる法の不備と可視化された権力犯罪

その「無反省」を支えてしまっている法の不備があります。不備というより、悪法というべきかもしれません。

刑事証拠の扱いをめぐる一連の法規定です。

刑事訴訟法は、開示記録の目的外使用を厳格に禁止しています。

刑事確定訴訟記録法は、確定訴訟記録の保管、管理を検察官に委ねています。保管検察官に原則として「閲覧させる」ことを義務付けていますが、謄写についての規定はなく、運用上、検察官の許可とされています。恣意的な運用が可能な制度と言うほかありません。

民事訴訟法も、文書提出命令について一般的な提出義務の対象(民事訴訟法220条4号)から刑事記録を除外しています(もとより、同条1号ないし3号による提出義務は別です。最決平成16年5月25日民集58巻5号1135頁)。

今回の田渕検事、末沢検事の行為は、密室であること、そして、弁護人の立会いがないことを悪用し、重要証人を脅迫し、その供述を変更させました。明らかな権力犯罪です。

その権力犯罪の実際は、取調べの可視化によって、客観的に記録されていました。

当然主任捜査官であった蜂須賀検事は、その権力犯罪の存在を知っていました。知りながら、無実の山岸さんの逮捕状・勾留を請求し、山岸さんを起訴し、山岸さんから多くのものを奪いました。その行為もまた、広い意味では、「権力犯罪」というべきです。

ところが、その客観的に明らかな取調べの実際が、国民の目にも耳にも届いていません。

元弁護人や山岸さんは、その可視化媒体も、反訳書も第三者に開示することができません。目的外使用禁止のためです。禁止違反に対しては、重罰も科せられる可能性があります。

国民には権力犯罪の実際を知る権利があります。国民の知る権利による監視と批判があってこそ、権力は自らの襟を正す機会も与えられるのです。逆に、国民の知る権利が閉ざされれば、権力の暴走を止めることはできません。近時、某国ではSNSを遮断し、戦争の実際から国民の目を塞ぐことによって、権力の暴走が続いています。戦争批判に対しては、重罰を科す立法もなされたようです。

日本も根は同じです。権力犯罪の実際を明らかにすることが罰則の威嚇をもって禁じられているのです。

もちろん、刑事訴訟記録を無制約に公表すべきと言っているわけではありません。目的外使用禁止の立法目的としては、「罪証隠滅の防止、関係者の名誉・プライバシーの保護、捜査協力の確保」などがあるとされ、その目的は正当です。しかし、それらの目的に十分に配慮しつつ、国民の知る権利にも資する方策はいくらでもあるはずです。

3 刑事確定訴訟記録法をめぐる検察庁の姿勢

原告代理人は、本訴提起直後の本年4月11日、大阪地方検察庁に対し、本件の刑事確定訴訟記録の閲覧と謄写を申請しました(申請名義は弁護士秋田真志)。閲覧、謄写の範囲は、弁護人らが作成した証拠調べ請求書、証拠意見書、そして弁護側証拠として請求され、公判で取り調べられた録音録画媒体です。弁護人が作成した書面、弁護側請求証拠を、あえて確定訴訟記録として、その謄写を請求したのです。

謄写請求の目的は、「国家賠償請求訴訟及び付審判請求・検察審査会申立てを含む刑事告発業務(取材対応も含む。)のため、保管記録の閲覧・謄写を申請する」と明示しました。当然のことながら、山岸さんの冤罪事件と、この国賠訴訟をめぐる一連の経緯は、国民の強い関心の対象です。報道機関も強い関心をもっておられることは、本日の法廷からも明らかです。当然に代理人らとしても取材対応が必要です。本件のような重大な国家賠償訴訟を提起する以上、その意義を国民に明らかにする責任を負っています。

もちろん、代理人らとしても、謄写した記録を無制約に報道機関に提供することを予定していません。保管検察官に対し、「第三者に閲覧させ又は交付する場合、…第三者が記録の写しを公開する場合、…容貌・音声等について必要な編集を施し、固有名詞については秘匿するなど、個人を識別し得る情報及びプライバシーに係る情報の公開を制限すること」を条件とする誓約書案を示しました。その他、謄写記録の扱いについては、さらに協議に応じる姿勢も持っています。

先日、保管検察官である大阪地方検察庁総務部副部長谷口誠検事から、代理人らに対し、現時点での検察庁の判断の方向性が示されました。謄写を許可しない方向とのことです。さらに、刑事確定訴訟記録法において義務付けられる閲覧についてさえ、「閲覧により知り得た情報を、取調べ時のやりとりの全部又は一部の再現等、記録の写しの全部又は一部の提供に準じる方法で、報道機関等への提供等をすること」を禁じる条件を提示してきました。その旨の誓約書を提出して欲しいというのです。「取調べ時のやりとりの全部又は一部の再現」さらに「提供に準じる方法」一切を禁止し、本件の取調べの実際が、ほんの僅かでも国民の目に触れることを阻止しようとする意図が露骨に表れています。

当然のことながら、谷口検事個人の判断ではないでしょう。最高検察庁も含めた検察庁が組織として、このような判断に至ったとしか考えられません。要は、権力犯罪を、検察庁をあげて隠蔽しようとする姿勢です。

4 国(検察庁)、そして裁判所に求められるもの-刑事証拠の積極的な提出を

検察庁は、そのような姿勢を改め、「無反省」体質から脱却するべきです。

国が、国民に対し真実を明らかにし、そして自らの襟を正すために、この国賠訴訟において、刑事記録を任意に提出することは可能です。もちろん、開示による弊害には十分に配慮した上で提出する方法はいくらでもあります。原告代理人らにおいても、先の誓約書案でも明らかにしたように、合理的で必要な配慮に協力する用意があります。万一、国が任意の提出を拒むようであれば、文書提出命令が議論されることになりますが、検察官の行った違法取調べやそれに基づく刑事訴追そのものの違法性が問われる本件において、文書提出義務が否定されることは考えられません。

本訴状の第9において、「被告に対する証拠の提出要求」をしました。決して、特別なことを求めたものではありません。真実をあきらかにするために、いずれも当然のことを求めたにすぎないのです。

「自己の名誉や評価を目的として行動することを潔しとせず、時としてこれが傷つくことをもおそれない胆力が必要である。同時に、権限行使の在り方が、独善に陥ることなく、真に国民の利益にかなうものとなっているかを常に内省しつつ行動する、謙虚な姿勢を保つべきである。」

これは、厚労省元局長事件をめぐる権力犯罪が明らかになった後に最高検察庁が発した「検察の理念」の一節です。この後に、次のように続きます。

「検察に求められる役割を果たし続けるには、過去の成果や蓄積のみに依拠して満足していてはならない。より強い検察活動の基盤を作り、より優れた刑事司法を実現することを目指して、不断の工夫を重ねるとともに、刑事司法の外、広く社会に目を向け、優れた知見を探求し、様々な分野の新しい成果を積極的に吸収する姿勢が求められる。

これらの姿勢を保ち、使命感を持って各々の職務に取り組むことを誇りとし、刑事司法の一翼を担う者として国民の負託に応えていく。」

高尚な理念が謳いあげられています。

「より優れた刑事司法を実現することを目指して」「国民の負託に応えていく」ために、必要な第一歩が、第9で求めた刑事証拠の提出に応じることです。

国は、この「検察の理念」に則り、訴訟追行されることを改めて求めます。また、裁判所におかれても、積極的な訴訟指揮により、国に対し、必要な刑事証拠の提出を求めて行かれることをお願いする次第です。

以上