刑事証拠の目的外使用禁止をめぐって-権力の違法と国民の知る権利

プレサンス元社長冤罪事件

朝日新聞デジタル版がこのブログを取り上げてくれた。プレサンス元社長冤罪事件の記事である。ここで、一つ問題提起しておかなければならない。ブログにも書き、朝日新聞も取り上げたが、今回の大阪地検特捜部の取調べはあまりにひどい。ところが、そのひどい取調べの実際は、テレビでもYouTubeでも、SNSでも一切流れていない。刑事訴訟法281条の4に「被告人若しくは弁護人…又はこれらであつた者は、検察官において被告事件の審理の準備のために閲覧又は謄写の機会を与えた証拠に係る複製等を、…(刑事訴訟の)手続又はその準備に使用する目的以外の目的で、人に交付し、又は提示し、若しくは電気通信回線を通じて提供してはならない。」とあるからである。いわゆる「目的外使用の禁止」である。

先のブログの記事も、「取調べ部分は、開示証拠の目的外使用の問題があるので適宜要約をしており、録音録画の文言どおりではない。しかし、趣旨やニュアンスは十分にわかるように配慮した」ものであり、その旨の断り書きを入れたが、入れざるを得なかった。上記禁止に反したとなれば、「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」である(刑事訴訟法281条の5。但し、弁護人の場合は、罰則は利益を得る目的の場合に限られる[2項]。しかし利益を得る目的がなくても、懲戒請求の対象になる)。国家権力の違法を論じるに当たり、少なからず萎縮を感じざるを得なかったのである。情けない気持ちが交錯するが、残念ながら、これが日本の現実である。これでは、他国に侵略しながら、SNSを遮断し、戦争批判に重罰を科した某国と同じではないか。もちろん筆者個人の問題にとどまらない。国民の知る権利が侵害されているのである。国民は、検察官による違法な権力行使の実際を知る権利がある。

もちろん、刑事証拠がなんの制約もなくそのままSNSで拡散されるような事態は、避けなければならない。目的外使用禁止の立法目的としては、「罪証隠滅の防止、関係者の名誉・プライバシーの保護、捜査協力の確保」などがあるとされ、その目的自体は肯首できる。しかし、それらの問題に十分に配慮しつつ、国民の知る権利にも資する方策はいくらでもある。一律に目的外使用を禁じることは、明らかに過剰である。特に、今回のような国家権力が違法なことを行ったときには、その姿を国民に知ってもらう必要がある。被疑者の姿は画像処理をし、発言部分も削除し、検察官が怒鳴ったり、机を叩いたりしている部分のみを抽出すれば、「罪証隠滅の防止、関係者の名誉・プライバシーの保護、捜査協力の確保」といった問題を生じることもない。裁判所が、関係者の申立によって、捜査上の秘密や関係者のプライバシーに配慮し、捜査機関に対し、開示できる証拠の範囲を特定するといった制度も考えられるはずである。本来、捜査機関が権力と税金を使って収集した証拠は、国民共有の財産であって、権力が独占すべきものではない。大阪地検特捜部の権力犯罪が繰り返されたことを機に、目的外使用の禁止についても再考すべきである。

 

 

投稿者プロフィール

秋田真志
秋田真志
1989年大阪弁護士会登録。刑事弁護に憧れて弁護士に。WINNY事件、大阪高検公安部長事件、大阪地検特捜部犯人隠避事件、FC2事件、SBS/AHT事件、プレサンス元社長冤罪事件などにかかわる。大阪弁護士会刑事弁護委員会委員長、日弁連刑事弁護センター事務局長、委員長などを歴任。現在、SBS検証プロジェクト共同代表。