黙秘を勧める際によく聞かれる質問とは?

刑事弁護

「雑談には応じてもよいですか?」

依頼者に黙秘を勧めたときによく聞かれる質問です。

これまで、しんゆう法律事務所のブログ内では様々な切り口から黙秘権について取り上げてきました。まず大前提として、「なぜ黙秘なのか」については、こちらの記事をご覧ください。

なぜ、黙秘なのか-黙秘は真実を守る
最近、事件報道で「被疑者は黙秘している」という表現をよく耳にする。刑事弁護の立場から言えば、ようやく日本でも「黙秘権」の重要性が理解されるようになってきた、と思える。とは言え、黙秘権ほど重要でありながら(憲法38条から直接導かれる権利であり...

ここでは、いざ依頼者に黙秘権行使を勧めるにあたっての具体的なやりとりに触れてみようと思います。これまでも述べられているとおり、「目の前の人間を無視する」ことは、人間心理として難しいものです。そこで対応として、私も、「取調官の発問をひたすら覚えて、被疑者ノートに記載して、私に教えてくださいね」と目標を設定するようにしています。

それでも、よく聞かれるのは、

「事件のことについては黙秘を頑張りますが、雑談には応じてもよいですか?」

という質問です。

結論としては、「雑談にも応じない」ということを勧めています。「事件のことについて黙秘し、雑談には応じる」。簡単なように聞こえるかもしれませんが、私はほぼ不可能であると思っています。

まず、捜査の段階では我々には何の情報もありません。身体拘束事件においては勾留状を取得することで被疑事実についてはわかりますが、逆にいえば、被疑事実しかわからないのです。捜査機関がどのような証拠を入手しているのか、どの範囲の関係者から話を聞いているのか。捜査段階では、被疑者側で把握できないことが多くあります。捜索差押時に押収された証拠、任意提出した証拠以外にも、捜査機関は様々な証拠を収集しています。起訴され、いざ証拠開示を受けてから、こんな証拠もあったのか!と思うこともよくあります。

このような中で、依頼者が、取調官のこの話は事件の話だ!これは雑談だ!と判断することは非常にリスクが高いといえます。もしかすると、取調官は、その雑談から新たな証拠のありかや関係者の有無を聞き取ろうとしているかもしれないのです。雑談のように聞こえて、実は余罪の聴き取りにつながっているかもしれません。私は、『「これが事件の話、これは雑談」と明確に分けられる』と考えること自体が誤りだと考えています。

これまで、依頼者が雑談にも応じず完全に黙秘をしている場合、そのうち取調べ自体が行われなくなっていくことが多くありました。逆に、「雑談」と判断したものに応じていると、もしかしたら話すかもしれないと思われるのか、取調べが延々と続けられることがあります。以前には、依頼者が「雑談」と考えて話した内容が大量に記載された報告書が作成されていたこともありました。依頼者の署名押印はなく、供述調書として取り扱われることはありませんが、そのような証拠も検察庁には送られます。

また、身体拘束されている事件では、勾留後、勾留延長請求がなされることがほとんどです。その際、延長を請求する検察官は、請求理由として、「被疑者取調べ未了」をあげることが多くあります。このとき、最初の10日間で完全黙秘(雑談にも応じない黙秘)をしていると、黙秘している被疑者に対してこれ以上の取調べは不要であると主張することができます。しかし「雑談」と判断したものに応じている場合には、主張として弱い部分が出てきてしまいます。つまり、「一定の話には応じていることからすれば、取調べを続けることで供述が得られる可能性が高い」などと捜査機関側が主張する余地を与えてしまうのです。「人質司法の実態―黙秘と勾留延長」という記事内で記されているとおり、完全黙秘をしていても、「被疑者取調べ未了」を理由とする勾留延長がまかりとおっているのも事実ですが、「黙秘する被疑者に対し、取調べ未了を理由に勾留を延長するのは黙秘権侵害だ!」と主張し、闘っていくためには、「雑談」にも応じないということが重要だと考えています。

これらのことから、私は、「雑談にも応じずに黙秘頑張ってみましょう。相手の言葉にどう対応するかを考えるのではなく、ひたすら覚えておいて、被疑者ノートに記録して、私に教えてくださいね」とお話しするようにしています。それでもやはり、難しいのが黙秘権行使です。そのため、我々は、身体拘束事件では、時間を見つけてできるだけ接見に行くこと、在宅で取調べが行われている事件では取調べに同行し、短時間で休憩を申し入れることを心がけています。

投稿者プロフィール

月田紗緒里